近時の改正によって新制度として登場した「株式交付」ですが、受験生としては「ただえさえ組織再編嫌いなのに・・・」という方も多いと思います。ただ、組織再編は択一・記述両面において出題頻度高いですから逃げていてはいけません。組織再編全般に妥当することですが、組織再編は「比較の視点」で学習を進めれば、身につけるべき情報量はそこまで多いものではありません。今回は、「株式交換」を比較対象として「株式交付」の特徴を浮き彫りにしてみたいと思います。

「株式交付」は、「完全親子関係」までは不要な場合、すなわち「単なる普通の」「親子関係」を作りたいだけである場合に使える制度です。普通の親子関係のキーワードは「議決権過半数」ですね。以下、両者の違いを述べます。親会社となろうとしている会社をA社、子会社となる会社をB社とします。

①【「株式交付」においてはA社は株式会社でなければならない】

「株式交換」においてはA社は合同会社でも構わないです。この①については、後記③とリンクさせて押さえるとよいでしょう。

②【「株式交付」においては原則A社における手続しか問題とならない】

「株式交換」においては、A社・B社間で株式交換「契約」を締結し、A社・B社双方でその株式交換契約につき株主総会決議による承認が必要となり(略式手続・簡易手続による場合を除く)、また、A社・B社双方で債権者保護手続の要否が問題となります。これに対して「株式交付」においては、A社が株式交付「計画」を作成し(A社が単独で)、A社においてのみ、その株式交付計画につき株主総会決議による承認が必要となり(簡易手続による場合を除く)、また、A社でのみ債権者保護手続の要否が問題となります。「株式交付」は、あくまで「A社」と「B社株主」との間の「個別の株式譲渡契約(の集合体)」といったイメージです。当然、「A社」が譲受人、「B社株主」が譲渡人です。このように「株式交付」は「個別の株式譲渡契約(の集合体)」である以上、譲渡されるB社株式が「譲渡制限株式」である場合には、B社における譲渡承認手続(会136以下)が必要となります。②のタイトルにおいて「原則」としているのはその趣旨です。

③【「株式交付」においては対価に株式が含まれている必要がある】

「株式交換」においては、B社株主に交付する対価が「A社株式以外のもののみ」でもOKですが、「株式交付」においては「A社株式以外のもののみ」はNGです。すなわち、対価としてA社株式を全く交付しないとすることはできません。(この点が①とリンクしますね。)

④【「株式交付」においてはB社の新株予約権も譲り受けることができる】

「株式交換」においては、株式交換契約において、「B社新株予約権を消滅させ、代わりにB社新株予約権者にA社新株予約権を与える」とすることができますが(この場合のB社新株予約権を「株式交換契約新株予約権」と言いますよね)、「株式交付」においては、B社新株予約権者からB社新株予約権を譲り受けることができます。すなわち、「株式交付」においては、A社がB社の新株予約権者となることもあるということになります。「株式交換」においても「株式交付」においても、将来B社新株予約権が行使されて新たにB社株主が生じる結果、完全親子関係や親子関係が崩れること、それを事前に防止できるということになるでしょう。

⑤【「株式交付」においてはB社について登記申請が必要となるケースは存在しない】

「株式交換」においては、④の「株式交換契約新株予約権消滅」の登記申請が必要となる場合がありますが、「株式交付」においては、B社の株主・新株予約権者の構成が変わるだけであって、何ら登記事項に変化が生じませんから、一律登記申請不要です。

以上、主要な違いを掲げてみました。「比較の視点」でもって組織再編の学習を頑張ってみてください。

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