前回、刑法の学習における意識の持ち方として、客観面と主観面を分けて考えようと申し上げましたが、そのことを簡単な事例を通して見てみましょう。

事例:AがBの後頭部を大きな石で思いっきり殴り、その結果Bが死亡したが、行為の時点においてAにはBを殺す気は無かった(Bがもし死んじゃったらそれはそれで構わないとすら思っていなかった。)。

結論:Aには殺人罪は成立せず、傷害致死罪が成立するのみ

上記事例においては、通説的な考え方に従うと、Aの行為に殺人罪の構成要件該当性が認められるかが問題となります。犯罪成立要件のうちの構成要件該当性レベルの問題です。構成要件該当性が認められるには、「客観面」において①「実行行為」(その犯罪が予定している結果を生じさせる現実的な危険性を有する行為)②「結果」③実行行為と結果との間の「因果関係」が必要で、かつ、「主観面」において④「①~③に該当する事実の認識又は認容」が要求されます。

殺人罪においては、①の「実行行為」は「人の死亡結果を生じさせる現実的な危険性を有する行為」であり、②の「結果」は「人の死亡結果」であるということになります。

上記事例において、「人の後頭部を大きな石で思いっきり殴る」という行為は、「人の死亡結果を生じさせる現実的な危険性を有する行為」であると評価できますので、①殺人罪における「実行行為」であるといえます。

また、「Bが死亡」したということは「人の死亡結果」が生じたということですから、②殺人罪における「結果」が生じてます。

さらに、「AがBの後頭部を大きな石で思いっきり殴ったせいでBが死亡した」のですから、上記事例においては問題なく③「因果関係」も認められます。(「因果関係」については、身につけるべき情報が結構ありますがここでは割愛します。)

以上のように、上記事例におけるAの行為は、殺人罪の構成要件該当性の「客観面」については充足していることになります。

では、構成要件該当性の「主観面」、すなわち、④「①~③に該当する事実の認識又は認容」に問題はないでしょうか。

まず、Aは行為の時点で、「オレは今、Bの後頭部を大きな石で思いっきり殴っている!」との認識があったでしょうから、①「実行行為」に該当する事実の認識はあったといえます。

しかし、行為の時点においてAにはBを殺す気は無かったのですから、人の死亡結果を認識していなかったということになります。すなわち、②「結果」に該当する事実の認識がなかったということになります。また、Bがもし死んじゃったらそれはそれで構わないとすら思っていなかったのですから、②「結果」に該当する事実の認容も認められません。

したがって、上記事例においては、④を充足しないが故にAの行為に殺人罪の構成要件該当性が認められず、殺人罪は成立しないということになります。

以上です。頑張ってください。

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